書評:「定年後」

お世話になります。

書店で平積みになっていた本でつい手に取ってしまった本、その名も「定年後」。

 

定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (楠木新著、中公新書

https://www.amazon.co.jp/dp/4121024311/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_1EjiCbV1J4GDB

 

 

知人にその旨話すと「まだ若くないでしょ。」とつい言われてしまいますが、読み終わった今言えることは「若い時こそ手に取ってほしい!」ということです。

 

著者の楠木新さんは新卒から定年まで30数年間大手生命保険会社につとめ、すでに定年退職された方で、まさに当事者の方です。定年後にシニア社員・定年退職者・地域で活動する人たちへの取材を通して得た”真に豊かに生きるためのヒント”が本書には詰まっています。

 

60歳時に36年間勤めて来た会社を退職した著者。退職した当初は開放感で満たされていたそうですが、数週間経つと生活リズムが狂ってしまったそう。まず予定がびっしりと詰まった手帳が空白となり、曜日の感覚がなくなります。また通勤のために早起きする必要もなくなり、概日リズムも狂います。会社に通ってた際は名前で呼ばれていたものが、今となっては名前で呼んでくれるのは病院の受付だけ(家庭では名前ではなく「おとうさん」と呼ばれる)。

そんな筆者はフィールドワークを行うことに。街場のカフェやスポーツジム、図書館など観察対象は多岐にわたります。そんななかで見えて来たのは「みんな独りぼっち」ということ。仕事の役職・(会社を通じた)社会貢献・歓送迎会などの懇親会など、それまでは会社が”インフラ”として提供していたものが一切なくなってしまいます。定年退職後の”悠々自適な”生活を期待するはいいものの、待っているのは役割を与えられない生活。家庭でも”亭主元気で留守がいい”と言われ、除け者にされてしまいます。

平均寿命が80歳を越す現代においては、定年後の時間はあまりにも長い。役職も解かれ、体力も残っている。そんな定年後に大事なのは”社会との繋がり”であると著者は説きます。

本書にはそれまでの仕事とは全く関係のない分野に進出したり、ゆるい形で会社に参画したり、幼少期に熱中したことを再び始めたりする定年後の方が取り上げられています。

 

また、定年後を充実させるためには”定年前からの準備”が必要ともおっしゃいます。著者は7歳のときに体調を崩し、長期療養を余儀なくされます。いかに会社にぶらさがっていたかということを実感し、50歳から執筆活動も始めます。会社員とフリーランスの2足のわらじを履いていたのです。仕事が一区切りするのが約3年と考えると、定年前から動き出すことで、その周期を繰り返すことができ、新たな立場に立てる可能性が高くなる。また、その道を極めた後にほかの分野にも手を出すことができる。そんなメリットがあるとおっしゃいます。

 

業務が忙しく、業務時間外はできるだけ休んでいたいと思う昨今でありますが、若いうちから交友の幅や趣味を広げたりする必要性を痛感させられました。いまのうちに読んでおいてよかったと、心の底から思います。